タイトル−エッセイ集
世界平和音楽祭 in広島
Mozart DON GIOVANNI 公演レポート (1)
 このレポートは、僕が1999年の8月に広島で開催された世界音楽祭のイベント、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」に、タイトルロールとして出演した際のレポートです。
 共演者に本場イタリア人歌手、演出家もイタリア人、舞台や衣装も世界の一流歌劇場よりと、非常に刺激的なプロジェクトでした。
 公演も大盛況のうちに幕を閉じ、その後、様々な音楽雑誌や新聞紙上においても高い評価を得ました。
 バリトン歌手であれば、一度は演じてみたい「ドン・ジョヴァンニ」。この公演に参加したことは、僕のその後の活動を大きく変化させるほど重要な出来事だったのでした。

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 僕が今、広島で取り組んでいるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」は、イタリア語を歌詞にもつオペラです。
 今回、僕はタイトルロール(題名役)を演じるわけですが、二日公演なので、もう一人、タイトルロールがいます。実は、それがイタリア人で、しかも若い。35歳だそうです。名前はジャンピエーロ・ルッジェーリ。
 僕は稽古の初日から、彼と仲良くなろうと思い、英語で一生懸命話しかけたのですが、なんと、彼は英語が駄目なのです。canが分からないのだから、本物です。「なーんだ、こいつも国際的じゃねぇなァ。ケッ、まァ、俺の演技でも見せて、いっちょ、びびらしたろかいっ」と、正直思ってしまいました。許して。

 ところがところが、いざ稽古が始まると、絶対的な美声ではないものの、声を作っていると言うような感覚が一切無い、本当に自然な声なのです。さらに演技がすばらしい。どこにも無駄が感じられないし、演出家の要求に、一発で完璧に答えます。こんな人、日本で会ったことないよ。
 そりゃね、日本にだってうまい人、たくさんいますよ。でもね、それらとはなにかが違う。とにかく自然なのですよ。すごいよ、ジャンピエーロ。
 そのうえ、ちょっぴり髪、薄いくせに、無茶苦茶かっちょいい。男の僕でもそう思う。
 何が違うのか、うまく言えませんが、僕は、嫉妬を通り越して恐怖すら感じました。こんなの初めて。

 ぢぐしょー。日本人だって、やるときゃやりままっせ。いいとこ吸収するだけじゃつまんない。それ以上の演技、演奏で、びっくりさせてやるのだ。

 でも今日は「お前も、いい演技するジャン」って感じで、イタリア語で言われて、つい日本人特有の無意味なスマイルでグラーツィエ(あんがと)を連発してしまった・・・今のところ僕が優位にたっているとすれば、頭の大きさくらいかなァ・・・
 ああ、今日は宮島の美しさと、もみじ饅頭のうまさを、頑張って説明してやった。まいったか。ジャンピエーロっ。                             >次頁(2)へ続く
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